第 1回(2018年)~第 6回(2023年)
(所属は受賞時の所属・敬称略)
回 年度 |
氏 名 | 所属・役職等 | 業績内容 |
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第 1回 2018年度 |
石上 盛敏
いわがみもりとし |
国立研究開発法人国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 上級研究員 医学博士 |
石上盛敏氏は、学部学生時代から現在に至るまで一貫して、発展途上国で熱帯医学、特に寄生虫症の分子遺伝疫学研究を行い着実な成果をあげてこられた。その研究スタイルは常に現地の研究者らと共に、時に寄生虫症の流行地域住民の目線に立ち、フィールド調査を実施し、各種データ及び検体を採取し、それらをラボで分析して対策につながるエビデンスを提供するというものである。2014年からは国立国際医療研究センター(NCGM)海外研究拠点の一つであるラオス国立パスツール研究所(IPL)に常駐され、マラリア、メコン住血吸虫症、及びタイ肝吸虫症の研究と対策をラオス保健省並びにWHOと共に実施されている。また研究と対策の他に、ラオス人若手研究者、並びに現地医療従事者の人材育成も精力的に行われている。これらの取り組みは、熱帯医学のあるべきオーソドックスな姿勢を顕示していると言えると共に、今後とも大いに活躍が期待される。 1997年から2004年の学生時代は、アジア諸国、並びに中南米諸国に流行する肺吸虫症、住血吸虫症、シャーガス病等のフィールド調査とラボワークを実施され、上記寄生虫症の感染率、分布状況、並びにDNA塩基配列に基づく分子系統分類を実施されてきた。スリランカでは肺吸虫の中間宿主貝の同定を初めて行われ、2004年からNCGM研究所に所属し、フィリピン、韓国、東南アジア諸国のマラリアのフィールド調査とラボワークを実施し、薬剤耐性マラリアの分布状況、並びにマラリア原虫集団の伝搬動態を明らかにされた。2014年から現在に至るまで、JICA/AMED SATREPSプロジェクトの一環として、IPL並びにラオス保健省と共に同国のマラリア、及び重要寄生虫疾患の研究・対策・人材育成を実施されている。同国における大規模マラリア・フィールド調査により、無症候性キャリアーの発見、アルテミシニン耐性マラリアの拡散状況の詳細な把握、並びにサルマラリア原虫のヒト感染症例をラオスで初めて報告された。さらに寄生虫症の診断技術の開発も行われ、また2017年からはWHOのテンポラリーアドバイザーとして、マラリア、並びにメコン住血吸虫症のWHOの地域対策会議での助言も行われている。 |
第 2回 2019年度 |
高橋 匡慶
たかはしまさよし |
キヤノンメディカルシステムズ株式会社 分子検査ソリューション事業推進部 グループ長 |
髙橋匡慶氏は、東芝研究開発センター入社以来、独自技術のDNAチップを用いた遺伝子検査システムの研究開発に従事してこられた。 2015年、西アフリカでのエボラ出血熱のアウトブレイク時には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究班に参加され、蛍光LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)による迅速検査システムを開発され、我が国の緊急支援の一環としてギニア共和国にこのシステムを供与し、技術指導を行われた。また、2016年にブラジルでのジカ熱の流行が世界的問題になった折、蛍光LAMP法による迅速検査システムの開発に着手された際、貴殿が中核となって開発に取り組まれ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認を取得し、社会実装を実現された。本研究の臨床性能試験は、故竹内勤慶應義塾大学医学部教授等が30年以上にわたり支援しつくりあげてきたブラジルのLIKA研究所で実施されたもので、現在も同研究所と研究協力を継続され、日伯連携感染症の偉業、研究資産を引き継ぎ発展させている功績は高く評価されるものである。 |
第 3回 2020年度 |
野中 大輔
のなかだいすけ |
国立大学法人琉球大学医学部保健学科 国立大学法人琉球大学大学院保健学研究科 准教授 保健学博士 |
野中大輔氏は、2003年から2年間、JICA青年海外協力隊としてラオス・ウドムサイ県保健局寄生虫対策課に勤務され、マラリア予防のための蚊帳の適正使用、土壌伝搬性寄生虫予防のための手洗い・トイレ使用の普及のための住民に対する健康教育活動に尽力された。 帰国後、ラオスで行った参加型マラリア健康教育介入研究を論文として国際誌に発表され、また、国際寄生虫対策プロジェクトの短期専門家として、ガーナ大学野口医学研究所のカウンターパートを指導しながら、ラオスで行った研究と同様の研究をガーナでも実施され、その成果も国際誌に発表された。 故竹内勤教授の指導を受けながら完成させたこれらの論文により、学校を基盤とした参加型健康教育のアジア・アフリカにおける効果を示された。 ラオスにおける住民のマラリア受療行動の研究は、現在は標準となっているPublic-Private Mix(公的医療機関だけでなく、民間の薬局・薬店も疾病対策に活用)導入の必要性を支持するエビデンスとして世界保健機関(WHO)の戦略文書にも引用されるなど、政策策定にも多大の貢献をされている。 |
第 4回 2021年度 |
Marcello Otake Sato
まるせろおおたけさとう |
獨協医科大学 医学部熱帯病寄生虫病学講座 助教 獣医師 医学博士 |
Marcello Otake Sato氏は、長年 熱帯・亜熱帯地域の人々をいまだに苦しめている寄生虫病、所謂「顧みられない熱帯病」の研究に携わり、数多くの成果を挙げられている。 特に、グローバル・エコヘルスの概念を念頭におき、特定の寄生虫や寄生虫病だけに着目するのではなく、病原体、媒介生物、宿主の相互関係を幅広く捉え、「現地住民の生活や文化の中でどのように寄生虫病が惹起されるのか?」を研究課題とした研究成果は、学会発表だけにとどまらず、数多くが国際科学雑誌で発表され高く評価されている。 近年は、新たな試みとして環境DNAの解析データや地理情報システム(GIS)を寄生虫病対策に取り入れた研究を進められ、流行地の自然水や土壌などの環境中に含まれる寄生虫の遊離DNAを解析することで、当該地域の侵淫の程度を割り出されている。さらに、 それらの検出データを罹患者の居住地や媒介生物が生息している地域の地図へ落とし込み、感染の危険がある区域の特定と感染リスクの予測に役立たせるとともに、将来的には調査地域を拡大し、現地住民へ高い精度の「寄生虫病ハザードマップ」を提供することを目指されている。 |
第 5回 2022年度 |
吉岡 浩太よしおか こうた |
長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 准教授(博士前期課程専任教員) 日本顧みられない熱帯病アライアンス 副事務局長 公衆衛生博士(ハーバード公衆衛生大学院) |
吉岡浩太氏は、長年マラリアに次いで危険な熱帯病といわれる中南米特有のシャーガス病を媒介するサシガメの駆除対策に多大な貢献をされました。 2010年~2014年、ニカラグアにJICAシャーガス病対策プロジェクト専門家として派遣され、ニカラグア保健省の了解のもと、現地調査チームを編成し、サシガメの生息状況の把握、生息が確認された家屋一軒一軒への殺虫剤散布等の対策をされました。しかし、殺虫剤は一時的にサシガメを駆除するには効果的であるものの永続的なものではなく、重要なのは住民がサシガメの脅威を理解し、継続的に監視するシステムを作ることが重要であることから、住民による監視システムを提案され、対象の5県49市でシステムを導入するための研修を実施されました。この監視システムは、サシガメを発見した住民が最寄りの保健所に届け出て、その後、保健所のスタッフがその家を訪問し、啓発・殺虫剤散布などの対応を行うというサイクルの確立を目指すものです。プロジェクトではさらにサシガメがとりわけ入り込みやすい壁のひび割れの修繕にも取り組まれ、こうした作業においても住民自身のイニシアチブを高めるように指導されました。ひび割れの修繕により、住民の感染リスクは大きく低下することになり、 こうした研究成果は多くの欧米専門誌に発表されています。 |
第 6回 2022年度 |
加藤 健太郎かとう けんたろう |
東北大学大学院農学研究科動物環境管理学分野 教授 獣医師 インフェクションコントロールドクター 獣医学博士(東京大学) |
加藤健太郎氏は、20年以上に亘って熱帯地域で蔓延している原虫病に対して病態発現メカニズムの解明、現地でサンプリングした原虫の疫学解析、現地の生薬を用いた薬剤スクリーニング等を行ってこられた。 特に、熱帯熱マラリア原虫と人獣共通感染症を引き起こすクリプトスポリジウム、トキソプラズマを研究対象とされ、「One Health」の概念から感染制御に取り組んでこられた。加えて、ナイジェリア等で使用されている伝統薬の抗マラリア効果の解析、バングラデシュの鶏でのクリプトスポリジウムの感染率の調査、フィリピンのコウモリからのクリプトスポリジウムの分子疫学解析等を行ってこられた。これらの研究成果は、著名な国際学術雑誌に多数発表されており、発展途上国における熱帯病や動物由来感染症の制圧に寄与している。また、帯広畜産大学在職中はJICA「原虫病及び食品媒介感染症上級専門家育成」コースで発展途上国からの研究者と教育研究も行なわれた。 |